患者さまと一緒に悩んで治療を決めるのが、私の強み

野本 恵子 Keiko Nomoto

患者さまと一緒に悩んで考える、本当に「いい治療」

夫と始めたのもとデンタルクリニックは、多くの患者さまに支えられながらもうすぐ30年目を迎えます。
歯科医師として多くの患者さまに接し、私が一番大切だと感じていることは、「患者さまに寄り添い、患者さまの立場で治療を考える」ということです。
歯科医師としてベストな治療をすることは当然ですが、その「ベストな治療」とは何なのか、私は日々患者さまと一緒に考えています。
「最低限の治療だけで十分」「見た目のキレイさを優先したい」「なるべく長く持つものがいい」と、患者さまによって大切にしたいことは異なります。患者さまを取り巻く環境(例えば、転勤、受験、結婚など)によって、いつまでに治したいとの希望があるか。良い治療はしたいが、介護、子育てなどで、経済的、時間的に自分のことは後回しにする患者さまもいます。
歯科医師としておすすめするベストな治療でなくても、患者さまが大切にしたいことと、置かれている環境をくみ取り、第二、第三の提案をしてお互いが納得できる治療をすることが一番大切なことだと思っています。
患者さまが自分の治療についてひとつの選択肢しか知らないことは、非常に罪なことだと思います。
治療のいい面も悪い面もきちんとお伝えして、一緒に悩めることが、他の歯医者さんとは違う点だと私は思っています。
教科書上、学術的にいい治療が、現場で本当にいい治療とは限りません。
患者さまが本当に大切するものに寄り添い、患者さまのことを思うことこそが、患者さまにとっても「いい治療」になると思っています。

ベトナムで学んだ「いきいき生きる」ことの意味

私を歯科医師として今のような考え方に大きく変えたのが、海外医療ボランティアでした。誰かの手助けをしたいという気持ちは、歯科医師になる前から抱いていて、ボランティア活動などにも積極的に参加してきました。
しかし、本業の歯科医師としてのスキルも活かしたいと思い、7年前からは海外医療ボランテイア団体に所属し、ベトナム、モンゴルなどで活動も行っております。

初めて訪れたベトナムの海外医療ボランティアでは日本とは大きく環境も子供たちの治療方針も違い、戸惑うことも多くありました。
例えば、日本では「歯は抜かずに残すもの」という考えが当たり前ですが、その常識が絶対に正しいとは限りません。
「この人たちは、来年や再来年に歯の治療を受ける機会があるか分からない。今は痛みがなくても、1年後にその歯が痛くなる可能性が高いなら、今抜きます。その歯の痛みが原因で、1年後に仕事の手伝いを休まなくてはいけなかったり、食事が満足にできないなどの問題が起これば、それが彼らにとっては命に関わる問題だから。」と教わりました。
今までは医学的にベストな治療を提案してきました。しかし、その人の環境や状況に合わせて、その人の将来に渡って何が一番ベストなのか、そこまで考えて治療をしていることに衝撃を受けました。

歯は失ってはいけないとても大切なものですが、何よりも大切なのは「人が人としていきいきと生きていける」こと。

これはベトナムや日本など関係なく、いきいきと生きていくことを手助けすることがと歯科医師としての本質だということを、改めて実感させられました。この海外医療ボランティアの経験が私の考え方の原点です。

最愛の母が教えてくれた、口腔ケアの大切さ

また、歯科医師としてもうひとつの転機になったのが、最愛の母の死でした。
母はがんを患って入院していたのですが、私はクリニックでの診察もあり、常にそばにいてあげることはできませんでした。
それでも、クリニックの診察が終わったら病院へ向かって、毎日口の中をきれいにすることが、歯科医師の私にできる最善のことでした。
通常、高齢になると食べ物や飲み物を飲み込む力が低下し、水分でムセることが多くなり、口腔内の菌が気管に入り「誤嚥性肺炎」になる可能性が非常に高くなります。
肺機能が低下して呼吸が非常に苦しくなる肺炎は、医療技術の発達した現代においても、高齢者にとっては命に関わる病気です。
実際に、日本人の死亡原因として、肺炎は三大成人病に次ぐ4位で、肺炎で死亡する人の94%は75歳以上というデータもあります。
母も高齢や抗がん剤の影響で免疫力も低下していましたが、ブラッシング、歯肉マッサージ、咀嚼筋マッサージ、口腔内リンパマッサージの甲斐もあって入院してからは一度も熱を出すことがありませんでした。
口から食事をとれること、心のケアを大切にすること、苦しまないことこの3点を担当ドクター、看護師、歯科医師として、娘として最重要視していました。
母は緩和病棟におりましたが、それにも関わらず、亡くなる10日前には外出許可をもらい、大好きなお寿司を食べに行きました。病院で寝泊まりし、子供の時以来の密度の濃い幸せな時間を親子で過ごすことができました。そして最期は苦しむこともなく安らかな表情で旅立っていきました。
きちんと口腔ケアを行ったことで、母が苦しくないエンディングを迎えることができました。

看護師さんから、「口腔内がとても綺麗でこれほど、死臭、ガン臭もなく穏やかな死をみたことがなく、病院では口腔ケアまで手が回らないのが現状ですが、口腔ケアの重要性を改めて感じました。」

と最後にお声がけいただき、口腔ケアをすることで、苦しむことなく最期を迎えられたことに、後悔のない看取りができたと思っています。
この経験をきっかけに、今まで以上に多くの方に、口腔ケアの重要性を教えて差し上げることが、母からの最期の宿題と感じています。

歯科以外の幅広い知識を持ち、提案することが私の使命

外科や内科のお医者さんにとって、口腔ケアは専門外の分野ですが、口腔ケアを怠ることは、誤嚥性肺炎を引き起こす要因になり得ます。
また、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因のひとつに、口腔内の歯周病菌があるとも言われてます。
今までの日本の医療現場では、専門分野に特化することが当たりませになっていましたが、人の身体はパーツだけで治療をすることはできません。
悪くなってから悪くなった原因を治療するではなく、悪くならないようにメンテナンスを行うような「予防」が大切になると思っています。
そのためにも、ドクターだけでなく、看護師やリハビリを行う理学療法士、言語療法士などが一丸となって治療を行う必要があると思います。
私のできる治療は歯科治療に限られていますが、歯科以外の幅広い知識を持ち、患者さまがよりよい暮らしを送れるご提案をすることが、私の使命だと考えています。
食いしばりを和らげるボトックス注射や口腔環境を改善する口腔内マッサージ。アンチエイジングについて学ぶ日本抗加齢医学会など、今でもさまざまな勉強を続けています。
患者さまの「いきいきした生活」をサポートするために、これからも患者さまの声に耳を傾け、患者さまと一緒に成長していきたいと思います。

【略歴および保有資格】

  • 日本歯科大学卒業
  • 厚生労働省認定卒後臨床研修指導医
  • 日本抗加齢医学会専門医
  • 口腔ヒアルロン酸治療認定医
  • 国際抗老化再生医療学会専門医
  • Medical Training Certificate
    /TEOXANE LABORATORIES
【所属学会】

  • 日本補綴歯科学会
  • 抗加齢歯科医学研究会
  • ドライマウス研究会
  • FAP美白歯科研究会